2018.11/07  耳たぶの記憶



店ではピアスも作って売っていました。

初めは金具を通すだけのシンプルなものでしたが




やがてリングピアスも作れるようになり




シルバーワイヤーなど手を広げ




さらに複雑化していきました。




しかし私の耳にはピアス穴が開いていないため、自分で作ったものを試すことができませんでした。

ある時、このようなピアスを作ったのですが



購入されたお客様が実際に着けたところ、ビーズの重みでグルン、と下を向いてしまったことがありました。

イヤリング金具に変更して使い続けてくださることになったのですが、とても申し訳なく、やはり試作品を自分で使う必要性を痛感し、ピアス穴開けの道具ピアッサーを買ってきました。


以下はその時の様子です。(当時のブログ 2010.12.28 より)

“ 怖くて、鏡の前で1時間くらい迷いました。インターネットでピアス開けの動画を見てイメージトレーニングなどしながら、器具を耳に当ててみるのですが、手に力が入らず「やっぱり無理だ」と机に置く繰り返しです。
しかし勇気を出してついに器具を耳に挟み、ぐっと力を入れると、内蔵されたピアスが「ガシャン」と飛び出して耳たぶに貫通…するはずだったのですが、ガシャンと鳴った途端、その音に驚いて手を離してしまい、半分だけ刺さって器具ごと耳たぶにぶら下がってしまいました。

あまりの恐怖に騒いだので顔は真っ赤、耳たぶも真っ赤です。しかしここまできて抜くわけにいかないので半狂乱の興奮に紛れて力づくで貫通させ、もう片方の耳はこの失敗を生かして成功し、晴れて両耳ともにピアスが付きました。開け終わったらとても清々しい気持ちになりました。"


…こんな思いまでして開けておきながら、その後両耳ともなかなか穴が定着せず、1ヶ月くらい痛みを我慢したものの泣く泣く諦めて定着用のピアスを外し、穴が塞がるのを待ちました。

状態が良かった日に一度だけ、サーカスピアスの試作品を着けることができましたが



その後は一切試せぬまま、穴が塞がって終わりました。跡はうっすら残りましたが目立ちません。


ところがあれから8年も経った今になって、この時の穴が原因で手術までするはめになったのです。

じつは今年に入って片方の耳たぶに出来た吹き出物が何ヶ月も治らなくなり、皮膚科に行ったら整形外科を紹介され、行ってみると…

なんでもあの時のピアス穴は完全に塞がったわけではなく、穴の中に出来ていた新しい皮膚、つまりトンネルの壁にあたるわずかな皮膚に、これも立派な皮膚ということで皮脂腺が形成されていて、そこが詰まって吹き出物となったのだそうです。

吹き出物を取り除き、今後のため穴を完全に塞ぐ手術をすることになりました。

麻酔をするので、麻酔なしのピアス穴開けに比べたらずっと楽、と気軽に臨んだのですが、実際はとても恐ろしいものでした。
もちろん麻酔で痛みはなかったのですが、「聞こえる」のです。ゴリゴリゴリゴリと、何かを切ったり削ったりする音が、耳に直接…。

目の手術は「見える」から怖い、という話を聞いたことがありますが、聞こえるのもまたこんなに恐ろしいとは初めて知りました。

身を硬くし、早く終わってくれ…と祈るばかりでした。

妊婦健診で、内診の時に身をガチガチに硬くしては「それじゃ入りません。力を抜いてください」と毎回注意されていましたが、今回はどんなに緊張しても耳たぶは柔らかいので何も言われません。

しばらくして無言で執刀していた医師が突然、「あれ?2つありますね」と声を出しました。

すっかり忘れていて診察の時に伝えもしなかったのですが、大昔、20歳の誕生日に、「大人の証☆」などと浮かれ気分でピアス穴を開けたものの血が止まらず1週間で塞いだという黒歴史があったのです。
その時は皮膚科で開けました。
穴は跡形もなく消えていて、記憶からもとっくに抹消したはずなのに、耳たぶの中にはしっかりと痕跡が刻まれていたのです。

忘れまいとする耳たぶの強い「意志」すら感じました。少し大げさですが、耳たぶの中で謎の人物が「私は…忘れまいよ」と微笑んでいる姿まで見えた気がしました。麻酔が強すぎたのでしょうか。

まさか手術台の上で20歳の記憶と再会させられるとは思わず、気恥ずかしさと同時にあの時の浮かれ気分まで蘇ってきます。でも浮かれている場合ではなく、その穴もついでに塞いでもらうことになり、倍の時間、手術に耐えることとなりました。

術後の経過は良く傷痕も目立たず、これでようやく耳たぶの過去を清算し平穏が訪れました。ずっと、いつかまたピアスにチャレンジしたい、ダメなら塞げば元通り、と思っていましたが、耳たぶは忘れてくれないと知った以上、もうイヤリングで十分です。

しかしこんなことになったのは左耳だけで、右耳は何ともないのはなぜなのか、術後のチェックで再来院した際に質問したところ、
ピアスをしている人がみんな耳たぶにトラブルを起こすわけではないように、私の左耳がたまたまこうなっただけで特に原因はないとのことです。

ふと、あの時宙ぶらりんになった器具を力づくで貫通させたのが左耳だったことに思い当たりましたが、それは申告せずに帰りました。

プフレーゲライヒトのおはなし